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人生における書道の位置付け

 習字研究社で書を学んでいる九州各県の書友が一堂に会し、交流と親睦を深め今後の発展に 寄与する目的で「九州ブロック佐賀大会」が2010年10月30・31日に開かれました。 その中で、各県連の意見発表があり、熊本県連からは、私が発表させていただきました。 以下にその時の発表内容を紹介します。

 「書道離れ」と言われて久しいですが、書道とはそんなに魅力のない世界なのでしょうか? 今回、私は、人の色々な活動の分野を、誤解を恐れず、思い切って単純化してグラフ化し、 その関係を考えてみました。

 いまから、4つのグラフをお見せします。これらのグラフの横軸は人の一生を表す時間軸で、 縦軸は、とある分野で活躍できる度合いを示します。

先ずこの図です。これは、多くの人が目指している、学校で勉強して 就職するという 世界を表します。学生時代や就職先でどんなに頑張って素晴らしい業績を残したとしても、 退職すれば、今までの積み重ねがゼロになってしまうのです。この事は誰でも分かっている事 なのですけれども、とても寂しい事だと思います。

次に、この図です。これはスポーツの世界を表します。一般的にある年齢でピークを 迎えて、その後は衰えて行かなければなりません。

この図は何を表すのでしょうか?高い到達点がありません。これは娯楽 を表します。娯楽は人生を楽しくしてくれます。気分転換により人生の困難な 事に立ち向かっていく活力も生まれてくると思います。しかし、あくまでこれは気分転換なのです。 どんなに多くの時間を費やしても高い到達点と言うものがありません。

さて、最後にこの図です。一生向上しています。書道に親しんでいるみなさんには、 これが何かもうお分かりですよね?そうです。これが書道です。年齢と共に活動の世界を広げて 行く事ができるすばらしい世界だと思います。

 書道に魅力はあると思うのですが、現実には、小学生で習字を始めても中学生になったらやめて 行くと言うケースが多いようです。勉強のためでしょうか?部活(スポーツ)のためでしょうか?
 勉強して就職するという事は経済的に自立すると言う意味で大事です。しかし、いずれは、退職 の時期を迎えます。出来れば退職の前に将来の事を考えておきたいものです。
 スポーツも大事です。体力を付けておかなければ人生を楽しめません。スポーツ自体も魅力的な 世界です。しかし、後半は少しさびしい事も考慮しておきたいです。
 娯楽は簡単に楽しめますが、深い喜びと言うものを本当に得られるでしょうか?苦労に苦労を重 ねた先にこそ、人生の真の喜びがあると私は思います。

 書道は、勉強しても、勉強しても到達点が見えない奥深い芸術です。絵画、彫刻等の他の芸術に 一歩も引けを取らないすばらしい芸術です。一生かけて行う価値が十分あります。それにもかか わらず、簡単な道具さえあれば誰にでも始められ、また初心者には初心者なりに楽しめる要素が 沢山あります。書道の様に簡単に始められ、かつ奥深いという特性を合わせ持つ芸術は、なかな かありません。

 このような書道の魅力を、私達は外部に自信を持ってアピールする必要があります。ただし、 書道の魅力に頼ってばかりではいけないと思います。経済的負担を減らしたり、書道を学ぶ喜びを もっと大きくする仕組み作りをしたりする必要もあると思います。

 書道を続けるには経済的負担が有ります。半切を何枚も書く体力も必要です。言うならば勉強とス ポーツが有ってこそ書道が成り立ちます。人生を楽しむための娯楽も時には必要でしょう。勉強、 スポーツ、娯楽は決して書道と相反するものではなく、相互に補完することにより人生をより良い ものにして行くためのものだと思います。何かを成し遂げるために、他を犠牲にしてはいけません。 すべてを目指して、人としての能力を最大限に発揮できるように努力するべきです。そしてそれが ワンランク上の豊かな人生に繋がっていくと私は考えます。
意見発表は以上で終わりです。以下、若干の補足説明をさせてください。

◆意見発表時は、4つの図を画用紙に描き、紙芝居のように見せながら発表しました。このHP上では 読み物用に多少のアレンジをしました。

◆230名もの聴衆の前での発表でした。本当はパソコンのパワーポイントとプロジェクターを使って 発表をしたかったのですが、自分ばかりそのようなわがままは出来そうにありませんでした。なにしろ、 発表のために用意されているのは演台とマイクのみで、6名の発表者が5分間の発表を次々と行うのです。 それでも、分かりやすく、記憶に残るような発表にしたくて、どうしても図を示したかったのです。 そこで考えたのが、手で持ち運べる画用紙を使う事でした。ただし、狭い画用紙に複雑な図を書いたら、 大勢の聴衆に分かってもらえませんので、極めてシンプルな図にする必要がありました。結果として、 発表自体も分かりやすいものになり、かえって良かったかもしれません。

2011年1月

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