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現代集字考

 書の創作は自己表現の場です。しかし、書を始めた人がいきなり「自己表現を・・・」と言われても戸惑うばかりでしょう。 もし、ためらわずに自己表現できる人がいたとしても、古典の臨書で鍛練を積んだうえで自己表現をしないと、我流になってしまいます。 書道を始める人は、古典の臨書で基礎的な事を学んだ後に、創作へと進んで行くべきです。
 創作する際には、臨書で学んだ成果を十分に生かしたいものです。 臨書を繰り返す事によって、すべての文字を完璧に背臨(古典を見ないで記憶によって臨書)する事が出来れば 良いのですが、常人にはとても出来そうな事ではありません。 現実的には、書道字典を使って、書きたい文字を古典の中から探してから創作作品を作ります。 書道字典は誠に便利なツールです。

ここで、字典の紹介です。漢字の字典ならば、断然、二玄社の「大書源」。収録文字数で他を圧倒しています(価格でも他を圧倒)。 二玄社のホームページに、大書源<頁検索>があり、探している漢字の掲載頁が一発で検索できるのが秀逸。 さらに、全頁がpdfファイルとして収録されているDVDが付属していて、パソコン上で草稿を作るのが大変楽になりました。


 ちょっと困るのは、望む文字が書道字典の中から見つからない時です。偏旁の組み合わせで何とかなる場合は良いですが、 類似の文字から創作しなければならない場合もあります。

 字典から集字してきた文字を並べて草稿を作るわけですが、ただ、単純に並べただけでは作品になりません。 文字の大小・造形・配置、墨の潤渇、線質、余白等々工夫をして、作品にしていかなければなりません。 現代に生きる我々は、現代の、さらには自分の表現をするべきです。それこそが自己表現なのです。 ・・・これが初心者には難しい。

 そこで、もう一つの集字の方法を提案したいのです。現代の名人の作品の中から集字するのです。 これは、古典の学習から離れてしまうかもしれません。しかし、名人も古典を学んで作品を作っているのです。 古典を参考にして創作作品を作ると言う、とても困難な過程の橋渡しの手段として、名人の作品を参考にするのはとても有効な方法だと思います。 突き詰めて行けば、名人が古典の文字をどのように参考にして作品を作っているのかを知る事ができるでしょう。 ところが、現代の名人の文字には字書がありませんので、参考にしたい文字を見つけるためには、作品を眺めて、該当の文字をひたすら探すしかありません。 もしくは、自分で字典を作るのです。自作の字典・・・これこそが、私が述べたい集字の道具、つまり文字検索なのです。

 そのような考えに基づき、2004年に篆刻で実践したものを、本HPに「文字検索の試み」として掲載しておりました。 その時に使ったソフトが「Visual Shot」で、結構使っていたのですが、突然状況が変わってしまったのです。

 2021年にパソコン買換えに伴ってWindows10になりました。2021年当時Visual Shot11を持っていたわけですが、 これがWindows10に対応しているかどうかをネットで確認したところ「この商品は現在お取り扱いできません」でした。 どういう事なのか、メーカーに直接問い合わせて見ました。

その返事が・・・ 「Visual Shot11は、Windows10にも対応していますが、2016年9月末をもって全ての販売、サポートを終了致しました。 後継製品、姉妹商品もご用意できておりません。今後の予定もございません。 Visual ShotのデーターをCSVファイルに出力し、Excelで管理する事をおすすめします。 誠に申し訳ありませんが、ご了承ください」 ・・・でした。 なんと!販売中止!ショックでした。

 「Windows10にも対応している」との回答に一縷の望みを託して試してみました。 すると、動かない事はないのですが、すぐにフリーズしてしまい、とても実用には耐えられませんでした。 メーカーに「Windows10では使えないですよ!何とかして下さい!」と言いたかったのですが、言っても無駄だと思いあきらめました。

 そうなると、Excelを使うしかなさそうです。また、それが一番良いかもしれないとも思いました。 他の画像管理ソフトを使ったところで、また、いつ、製造中止にならないとも限りません。 Excelならば、Windowsと共にバージョンアップされていき、製造中止の心配はないでしょう。

 Excelに変えるために、また、多大な時間と労力を必要としますが、ボチボチやっていくしかないです。 Excelを使って画像管理を始めたところですが、それほど不便になるわけでもありませんでした。 最初からExcelにしておけば、良かったかもしれませんが、やはり専用ソフトにはスマートなところがありましたので、やはり残念でした。

 そういう経緯で、「文字検索の試み」のページは削除して、本ページを設ける事にしました。

 たとえ、現代の名人の作品から集字してきたとしても、単純に並べただけでは作品にならない事には変わりありません。 文字の大小・造形等々工夫を重ねて、作品にしていかなければなりません。 この困難さを乗り越えるためには、信頼のおける先生から指導を受けるのが最も早道だと思います。 しかし、現代の名人の作品から集字するにしても、先生から指導を受けるにしても、古典からの集字が基本である事は、忘れてはいけないと思います。

 自分であれこれ考えたり、先生の指導を受けたりしているうちに、せっかく古典から集字してきた草稿から離れてしまう感じもします。 面倒な集字はやめてしまいたいと思う事もあります。 それでも、なぜ古典から集字するのかと言うと、次のような事が期待できると思うからです。

1)正しい形を知る
正しい字形を身に着ける必要があります。特に、草書では、ちょっとした違いで誤字になってしまいます。 字典に掲載されている文字でも怪しい文字もあります。多くの字形を確認して、普遍的な字形を書くことが望ましい。

2)美しい形を知る
古典の美しい文字をその都度確認して、我流になってしまう事を防ぎたい。

3)変化の形を知る
字典には、色々な筆者の色々な古典が掲載されています。字形のどこを強調するべきか、変化させるべきか、ヒントが沢山あります。 沢山のヒントを身に着ける事が、自分自身の表現の幅を広げてくれます。

先生から指導を受けるのが最も早道と言いましたが、その早道でも、私には遥か遠い道のりです。

2022年2月記


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