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篆刻と半導体

 随分、掘る事に係わってきました。もちろん、篆刻はそうですが、仕事(半導体の生産技術) の上でも、掘る事に携わっています。篆刻と半導体、一見何の共通性も無いようですが、 その係わり合いに関して述べて見ます。(わざわざ断らなくても分かって下さるとは思います が、冗談半分ですので、そのつもりで読んで下さい)
 私は、IC、LSIと言った半導体の生産技術に関わっています。その中でも不良解析技術に携 わっています。半導体生産技術とは、その名前から想像できますように、半導体を量産する ための技術です。生産している製品がすべて良品であれば良いのですが、実際には不良品も 出来てしまいます。生産性、信頼性を向上させるための一つの方法として、不良品を調べて、 その原因を突き止め、同じ不良品は二度と出さないようにします。不良原因を調 べるための技術が不良解析技術です。
 不良解析の中で、掘る技術と言うのはFIB(Focused Ion Beam)の事です。この装置はGa (ガリウム)のイオンを加速して、狙った場所の半導体表面にぶつけます。そうすると、 Gaイオンが半導体表面の分子を弾き飛ばし、半導体表面に穴を開ける事が出来ます。 要するにこの装置を使うと、半導体表面に任意形状の穴を掘ることが出来ます。そして、 この技術を応用して、掘った穴の側面を観察したり、0.1μm程度の薄片にして取り出 して、その薄片を観察したりします。
  篆刻 半導体不良解析 備考

石(SiO2) Si、SiO2、Al等 以外に似ている。両方とも「石」と呼ぶ事がある。



印刀(Fe) イオン(Ga) 物理的に掘る事は共通している。(かなり苦しい共通点)



何も無いところに形を作り出します。 既に何か在る物を明かにする為に掘ります これは決定的に異なる所です。でも、「既に在る物」が判らない場合も・・・




文字の所を掘ります。印泥を付け、紙にツ印すると、文字が白抜きになります。
   
穴を開けます。そして側面を斜めからみる事により半導体の断面を見る事が出来ます。
   
白文は掘る所が少ない。




文字の所を掘り残します。ツ印すると、文字の部分が朱色になります。
   
見たい所を両側から削っていき、0.1μm程度の厚さにします。そして、電子線を当てて透過して来た電子を検出する事により、像を見ます。
   
篆刻は表面に、半導体不良解析は側面に用がある。

0. 1mm。
人手で加工するには限界。工業的にはもっと高精度のものがありますし、芸術的にももっと細かいものがあるでしょうけど…。
0. 1μm。
もっと精度良く加工する方法が無いわけではないが、その場で自由に加工すると言う意味では限界。
芸術と工業と全く異なる世界ですが、それぞれに加工の限界を追及して成り立っている。




他の所で工夫して失敗が無かったかのように見せかける。 これも一側面である事を強調する。 誤魔化せる時は良いのですが・・・







加工時にもそれなりに想像は出来るが、正確な所は、印泥を付け、紙にツ印して初めて確認出来る。 加工時には僅かな情報を頼りに加工する。加工後に側面から観察して初めて出来上がりを確認出来る。 それぞれ、加工の出来栄えは、見方を変えないと確認できない。


もちろん、篆刻は芸術の一分野です。文字を扱っているので、絵画、写真とは異なる点も、もちろんあります。しかし、印泥の朱、紙の白、墨の黒の造形世界でもあります。 電子顕微鏡等に携わっておられる方には、絵、写真等に造詣の深い方も珍しくないようです。なぜなら、電子顕微鏡等の結果は写真その物です。結果をアピールするためには、写真にも美しさが要求されます。  

はみだし
 書道界に於ける篆刻の立場と半導体生産技術に於ける不良解析の立場が何となく 似ているような気がしないでもなくて・・・。

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